糖尿病の合併症に関して

  • 糖尿内科

糖尿病に関するお話の4話目です。

今回は、糖尿病の合併症に関してお話します。

【糖尿病の合併症】

 糖尿病患者さんで血糖が非常に高い場合には、喉が渇いたり、多尿になったりすることがありますが、そうでなければ日常生活においての自覚症状はほとんどありません。そのため、この病気は軽んじられることも少なくありません。しかし、気づかぬ間に下記のような合併症が進行することがあります。正しい知識をつけて、予防していくことが大切です。

 糖尿病の合併症には急に症状の現れる急性のものと、ゆっくりと進行し気づけば症状の現れる慢性のものがあります。

 急性の合併症には、血糖がとても高くなり意識がもうろうとなるものや、血糖降下剤の使用による低血糖症状を呈するものなどがあります。

今回は慢性の合併症に関して、お話します。

 糖尿病の慢性合併症には大きく分けて、細い血管にダメージを受ける細小血管障害と太い血管にダメージを受ける大血管障害の2種類があります。

 イメージしにくいかもしれませんが、

細い血管の障害とは、眼、腎臓そして神経の障害のことをいいます。また、太い血管の障害とは、心臓(心臓の表面にあり心臓を栄養している冠動脈)や頭、そして足の血管障害のことをいいます。

 

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【細小血管障害】

 血糖コントロールが悪いと発症しやすく、進展もしやすいと言われています。糖尿病の罹病期間とも関連すると言われており、『いつ、糖尿病と言われましたか?』と質問されることがありますが、そのための質問です。

  1. 糖尿病網膜症

糖尿病網膜症は、糖尿病合併症の中で、生活の質に大きく影響を与えるものの一つです。現在でも成人になってからの失明の原因の第2位が糖尿病です。

網膜は、眼球の一番奥にあり、レンズを通して見たものが像を結ぶところです。この網膜にある細い血管に変化が起こることにより網膜症が生じます。

 網膜症には段階があります。血管の障害により、血液や水分が漏れてきて、出血、白斑といった変化が出現します。この時期を『単純網膜症』と言います。黄斑部という大事なところに障害がなければ、自覚症状はない状態で、眼底検査をしなければ判りません。この段階では、血糖コントロールをきっちりすれば元に治ることがあります。

 進行すると、毛細血管の異常を認めるようになります。この時期を『増殖前網膜症』といいます。さらに進行すると、網膜より新生血管と呼ばれる新しい血管ができます。しかし、その新生血管は非常に脆弱なために破裂しやすく、よく出血してしまいます。この時期を『増殖網膜症』といいます。レーザー光を用いた光凝固療法や硝子体手術などを施行することもあります。

 網膜症の発症や進展を防ぐ為には、血糖と血圧を良好に保つことが重要であると言われています。

 そして、視力障害などの症状がでないうちに眼科受診することも重要です。糖尿病対策推進会議による受診期間の目安を図に示します。あくまでも目安であり、受診期間に関しては眼科の先生の指示に従って下さい。

 

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  1. 糖尿病腎症

 腎臓は、体内で作られた老廃物や水分を尿として体外に排泄する体のろ過装置です。腎臓には、毛細血管が糸球状になった糸球体とよばれる構造が100万個もあり、そこで、不要なものを尿として排出し、必要なものを体に残す作業をしています。

 高血糖が続くと腎臓が障害され糖尿病腎症を発症します。腎症では他の合併症と同じように最初のうちは症状がありません。しかし、詳しい尿検査により蛋白の一種であるアルブミンの増加が観察されます。アルブミンは蛋白の一種ですがサイズがより小さい為に腎臓のダメージが小さい時から漏れ出てくることが判っています。アルブミンが健常人よりたくさん漏れ始める時期を腎症2期:早期腎症期といいます。この状況であれば、血糖と血圧をコントロールすることにより腎症の改善が期待できます。

 しかし、進行していくと蛋白尿が持続的に出る状態となります。この時期を腎症3期:顕性腎症期といいます。さらに悪化すると、むくみが出始め、血液中のクレアチニンの値が上昇し、疲れやすいなどの自覚症状や、高血圧、貧血なども現れるようになります。この時期を腎症4期:腎不全期といいます。ちなみに貧血になる理由は、腎臓は血液を作るホルモンを分泌しており腎機能が落ちてくるとホルモン分泌も低下し、貧血になります。

さらに進むと、老廃物を体外に排出できなくなり、尿毒症となり血液透析が必要になります。日本で透析が必要となる原因として最も多いのが糖尿病です。

 症状がでないうちから尿検査を受けることは重要です。腎症を発症させないためには血糖コントロールが重要であることが判っています。また、腎症の進行には血圧のコントロールも非常に重要です。一般的に糖尿病患者さんの血圧目標は130/80mmHg未満ですが、蛋白尿の多い(1g/day以上)患者さんの血圧目標は125/75mmHg未満と更に厳格なコントロールが求められます。

まずは、塩分を控えることが重要です。血圧が正常でもアルブミン尿を認めるようになればある種の降圧剤の内服を勧めることがあります。さらに腎症がすすんだ場合は腎臓の機能を保護する目的に、腎臓への負担の少ない食事である低蛋白食が必要となり、それまでの食事療法とは大きく変わることになり、主治医や栄養士さんと食事療法の確認することが勧められます。

 

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  1. 糖尿病神経障害

 糖尿病神経障害は障害された神経によって症状が異なります。末梢神経障害と自律神経障害に分けられますので、それぞれ説明していきます。

末梢神経障害

 末梢神経は痛みなどを感じたり、手足を動かしたりすることに関わる神経です。多くは手足の先が左右対称に障害されます。手足がしびれたり、足の裏に紙をはったような自覚症状を認めることもあります。また、手足の先の感覚が鈍くなるために、こたつや湯たんぽでの低温やけどをしても気づかないことがあります。その為、足壊疽にまで進行することもあります。

 軽症のうちは血糖コントロールをよくすることで症状が消えたり、改善されたりします。しかし、血糖のコントロールの悪い状態が長く続くと治りにくくなります。

 

自律神経障害

 自律神経は、自分の意志に関係なく動いている胃や腸、血圧、排尿などを調節している神経のことをいいます。自律神経が障害されると、便秘や下痢、起立性低血圧(たちくらみ)、尿の出が悪くなる、勃起障害などの自覚症状を認めることがあります。また、無自覚低血糖といわれる現象、すなわち低血糖状態になっても動悸や冷や汗といった症状が現れず、いきなりけいれんや昏睡に陥る原因にもなります。心臓も自律神経により調節されていますが、心臓の冠動脈が細くなる狭心症になっても胸痛や胸の違和感が生じない場合もあります。

 

【大血管障害】

大血管障害も細小血管障害と同様に血糖コントロールが悪いと発症しやすく、また進展もしやすいのですが、血糖コントロール以外にも気を配る必要があります。高血圧、脂質異常症(高LDL血症、高TG血症、低HDL血症)、喫煙も動脈硬化を悪化させ大血管障害を発症・進展させることが判っています。そのため、血糖だけでなく、血圧や脂質のコントロールそして禁煙を実行することも重要です。

  1. 狭心症・心筋梗塞前にも述べましたが、糖尿病神経障害がありますと、痛みを感じる神経が鈍くなっている場合もあり、狭心症や心筋梗塞を起こしていても胸の痛みを感じないことがあります。
  2. 普段から、心電図などの検査を受けることは大切です。
  3. 心臓は体全身に血液を送るポンプの役割をしている臓器です。心臓には、心臓の筋肉に血液を送る冠動脈という血管があり、この冠動脈に動脈硬化が生じ、血管が細くなると、心臓の筋肉は酸素や栄養を十分送ってもらえなくなり、運動時などに胸痛が生じます。これが狭心症です。また、冠動脈が完全につまってしまったものが心筋梗塞です。
  4. 脳血管障害

脳血管障害とは、脳出血や脳梗塞など、脳の血管に原因がある病気のことをいいます。脳出血は、脳の血管が破れて出血することで、脳梗塞は脳の血管がつまり、血流が途絶え、脳が障害を受けることをいいます。障害を受けた部位により出現する症状は様々です。

 

  1. 末梢動脈性疾患

足の太い血管が、動脈硬化により狭くなったり、つまったりすることをいいます。足先を冷たく感じたり、歩くと足に痛みやだるさを感じるようになります。少しのけがでも傷が治りにくく、細菌に感染し、化膿しやすくなります。悪化すると壊疽(えそ)となり腐ってしまうと切断も余儀なくされることがあります。糖尿病の人では、神経障害のために、足のやけどや怪我が起きても痛みを感じず、見過ごされやすく、また高血糖のため、細菌に対して抵抗力が落ちていることなどより、壊疽に至ることがあります。靴ずれなどの足の怪我に気をつけ、足を清潔に保つことが大切です。

【合併症対策】

どうすれば、いいのでしょう。

  • 細小血管障害に関しては、

 ・よい血糖コントロールを目指すことです。理想はHbA1cの値が7%未満ですが、目標値は前回コラムの『糖尿病治療の目標』を参考にして頂ければと思います。

 ・網膜症や腎症では、血圧のコントロールが重要であることも判っています。

 

  • 大血管障害に関しては、

 血糖コントロールもさることながら、血圧、脂質(コレステロール)のコントロールと更に、禁煙することも重要です。

 それぞれの方の病状に合わせて、検査や治療法を話し合っていきましょう。

 

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