糖尿病の薬物療法
- 糖尿内科
糖尿病に関するお話の7話目です。
今回も、治療に関してお話します。
糖尿病の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法の3つの方法があり、各々の方に合った方法を組み合わせて治療していきます。
今回は、薬物療法のお話しを致します。
糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法です。基本的には、この食事療法や運動療法をしばらく行っても、血糖値が十分に下がらない場合に薬物療法を開始します。
現在、血糖降下薬にはたくさんの種類があり、人によって適切と思われる薬は異なります。当院では、なるべく理論的にその人にあった薬をお勧めし、本人様と相談しながら治療していくことを心掛けています。
まず、糖尿病治療の薬には下記のようなものがあります。
主な働き | 薬剤の種類 | 主な薬名(商品名) |
---|---|---|
インスリン分泌を促す | SU剤 | アマリール、グリミクロンなど |
インスリン分泌促進薬 | グルファスト、シュアポストなど | |
インスリンの効きをよくする | ビグアナイド | メトグルコなど |
チアゾリジン | アクトス | |
インクレチンに関連する | DPP4阻害剤 | グラクティブ、ジャヌビア、トラゼンタ、ネシーナ、エクア、テネリアなど |
GPLP1受容体作動薬(注射) | ビクトーザ、トルリシティーなど | |
ブドウ糖の吸収を遅らす | αグルコシターゼ阻害剤 | ベイスン、グルコバイ、セイブル |
ブドウ糖の排泄を促す | SGLT2阻害剤 | カナグル、デベルザ、ジャディアンス、フォシーガ、スーガラなど |
インスリン | インスリン(注射) |
薬名は、商品名で記載しています。
また、主に当院で採用しているもの(一部採用してない薬あり)を記載しました。
では、上記の薬に関してそれぞれ説明していきます。
●血糖を下げるインスリンの分泌を促す薬
① スルホニルウレア(SU薬)
・膵臓のβ細胞という場所に働きかけてインスリンの分泌を促します。
・注意すべき点:低血糖や体重増加です。低血糖時には冷汗や動悸などの症状が出ることがあります。特に、高齢者や腎機能の低下している方の場合、薬の効果が体内に残ることがある為、低血糖が生じやすく、またその症状が長引くことがあり注意を要します。
・薬の種類:グリメピリド(アマリール)、グリクラジド(グリミクロン)
上記のほかにもグリベンクラミド(ダオニール・オイグルコン)といった薬があります。
②インスリン分泌促進薬
・膵臓のβ細胞に働きかけてインスリンの分泌を促します。SU剤に比べると、効果は早く現れ、早くに消失します。食事の直前に飲んで下さい。
・注意:低血糖です。薬を内服してから食事までの時間が空きすぎると低血糖を起こす危険性があります。
・薬の種類:ナテグリニド(スターシス、ファスティック)、ミチグリニド(グルファスト)、レパグリニド(シュアポスト)
●インスリンの効きをよくする薬
③ビグアナイド
・肝臓から放出されるブドウ糖を抑えることで血糖を下げる。
筋肉でのインスリンの効きをよくすることで血糖を下げる。
・注意すべき点:
乳酸アシドーシス:非常にまれですが、吐き気、異常なけだるさ、意識消失などを生じることが報告されています。
また、腎臓や肝臓の悪い人、高齢者、アルコールをたくさん飲む人は副作用が現れやすい為、注意が必要です。
ヨード造影剤使用時や大手術施行前後には中止が必要です。
・薬の種類:メトホルミン(メトグルコ)、ブホルミン(ジベトス)など
④チアゾリジン
・筋肉や肝臓などのインスリンがよく働く組織でインスリンの効きをよくして血糖降下作用を発揮します。
・注意すべき点:
水分貯留を示す傾向にあるため、浮腫が生じやすい。
骨折しやすくなる。
一時、使用により膀胱癌の発症が増加すると言われていました。
・薬の種類:チアゾリジン(アクトス)
●インクレチン関連薬
インクレチンとは食事をすると小腸から分泌される消化管ホルモンです。インスリンの分泌を促し、血糖値を上げるグルカゴンというホルモンの分泌を抑制することが知られています。
⑤DPP4阻害剤
・インクレチンは分泌された後、短時間でDPP4という酵素で分解されますが、その分解を抑えることでインクレチンを減らさないようにします。体重を増やすことなく、この薬のみの使用では低血糖発作を起こしにくいことも良い点です。
最近は、週に1回のみ内服する薬も出ています。
・注意すべき点:
飲み合わせ(SU剤など)によっては低血糖発作が生じることもあります。
・薬の種類:
シタグリプチン(ジャヌビア・グラクティブ)、ビルダグリプチン(エクア)、アログリプチン(ネシーナ)、リナグリプチン(トラゼンタ)、テネリグリプチン(テネリア)、
アナグリプチン(スイニー)、サキサグリプチン(オングリザ)、
週に1回
トレラグリプチン(ザファテック)、オマリグリプチン(マリゼブ)
⑥GLP-1受容体(注射製剤です。)
・インクレチンの1種であるGLP-1を分解されにくい構造に変えた注射薬です。インスリン分泌を促し、グルカゴン分泌を抑える働きがあります。体重を増やしにくいことが特長です。
最近は週に1回のみ打つ注射薬も出ています。
・注意すべき点:
嘔気や下痢、便秘など認めることがあります。
飲み合わせ(SU剤など)によっては低血糖発作が生じることもあります。
・薬の種類
リラグリチド(ビクトーザ)、エキセナチド(バイエッタ)、リキシセナチド(リキスミア)
週に1回
エキセナチド(ビデュリオン)、デュラグリチド(トルリシティー)
セマグルチド(オゼンピック)
●ブドウ糖の吸収を遅らせる薬
⑦αグルコシターゼ阻害剤
小腸内で食物中の糖質をブドウ糖に分解する酵素の働きを抑える薬です。小腸でのブドウ糖の吸収がゆっくりとなり食後の血糖値の急激な上昇が抑えられます。
・注意すべき点:
食直前に服用することです。ブドウ糖の吸収を遅らせる薬ですので食後に内服すると効果が落ちてしまいます。
この薬のみを服用している場合は低血糖の心配はほとんどありませんが、SU剤やインスリン分泌促進薬、インスリンと併せて使用している場合は、低血糖が生じる場合があります。低血糖が起きた場合は、砂糖では吸収が遅れてしまい血糖がすぐに上がらない可能性もある為、ブドウ糖を服用するようにして下さい。
腹部が張った感じ、下痢や便秘、ガス(おなら)など
・薬の種類
ボグリボース(ベイスン)、アカルボース(グルコバイ)、ミグリトール(セイブル)
●ブドウ糖の排泄を促す薬
⑧SGLT2阻害剤
SGLT2は腎臓にあるたんぱく質です。糖は、本来大切なものですから体外に出にくくなっており、腎臓で糖を尿から血液に戻す作業がなされておりますが、その時に関与しているものです。そのSGLT2の働きを抑えることで、糖を体の外に出す薬です。体重を増やしにくいことが特長です。
・注意すべき点:
多尿、脱水、尿路感染症など
しっかり飲水することが大切です。
・薬の種類
イプラグリフロジン(スーグラ)、ダバグリフロジン(フォシーガ)、ルセオグリフロジン(ルセフィー)、トホグリフロジン(デベルザ、アプルウェイ)、カナグリフロジン(カナグル)、エンパグリフロジン(ジャディアンス)
●インスリン
インスリンは膵臓のβ細胞というところから分泌されている血糖を下げる物質です。インスリンの分泌のされ方としては、『基礎分泌』といって常に一定量分泌される場合と、『追加分泌』といって、食事の際に分泌される場合あります。その為、インスリンを使用する場合もそれに合わせて使用するのが望ましいと考えられています。
すなわち、ゆっくりジワーッと効くタイプのインスリン(持効型インスリン)と投与するとすぐに効くタイプのインスリン(超即効型インスリン)を組み合わせるものです。
他にも、混合型といって、すぐ効くタイプとゆっくり効くタイプの混ざったものもあります。
当院では、インスリンの導入(インスリン注射を打ち始める)や、血糖測定の仕方の指導もしております。
この項の最後に
薬物療法には、経口薬と注射製剤があります。使用されている薬の特徴を知ることはとても大切です。SU剤やグリニド製剤、インスリンを使用されている場合は低血糖が生じる場合もありますので、その対処方法も知っておくことが大切です。また、皆様それぞれ病態(状態)は異なりますので、投薬内容も様々です。薬が必要な場合は、なるべく理論的な処方をお勧めしておりますが、それがうまくいくことも、いかないこともあります。
その為、食事療法・運動療法・薬物療法を組みあわせて、患者さんそれぞれに合った治療方法を見つけていきましょう。