糖尿病の運動療法

  • 糖尿内科

糖尿病に関するお話の6話目です。

今回も、治療に関してお話します。

糖尿病の治療には、食事療法運動療法薬物療法の3つの方法があり、各々の方に合った方法を組み合わせて治療していきます。

今回は、運動療法のお話しを致します。

運動療法は、糖尿病だけでなく、加齢や運動不足による筋萎縮や骨粗鬆症の予防、高血圧や脂質代謝の改善、心肺機能を良くするなど様々な効果が見込まれるものです。

しかし、中には運動を控えた方がよい方もおられますので主治医の先生との相談も大切です。では、それぞれ説明していきます。

 

【運動の効果】

比較的早く現れる効果:エネルギーの源のブドウ糖を利用することで血糖が下がる。

ゆっくりと現れる効果:筋肉がつくことで、血糖を下げるインスリンの働きをよくする。

           エネルギーを消費することによる体重減少。

           加齢や運動不足による筋萎縮や骨粗鬆症の予防、

           高血圧や脂質代謝の改善、

           心肺機能を良くする

などが挙げられます。

 

【どのような運動をするのか】

有酸素運動とレジスタンス運動という運動が推奨されています。

有酸素運動は、酸素の供給に見合った強さの運動で、継続して行うことによりインスリンの効きが良くなることが期待されます。そのことで血糖が下がることが期待できるわけです。例えば、歩行、ジョギング、サイクリング、水泳などが挙げられます。

レジスタンス運動とは、筋肉に抵抗をかける動作を繰り返す運動のことをいいます。筋肉量や筋力を増加させるとともに、インスリン抵抗性を改善し、血糖が下がることが期待されます。水中歩行、ダンベルなどが挙げられます。

有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせることはより効果的であるとも言われておりますし、レジスタンス運動は有酸素運動が困難な場合の選択肢となる可能性があります。

 

【運動の強さと頻度】

中等度の強さがよいと言われています。運動の強さは心拍数によって程度を判定する方法があります。運動時の心拍数で、50歳未満の方では1分間に100~120拍、50歳以上の方では、1分間に100拍以内に留めるようにして下さい。自覚的には「楽である」、もしくは「ややきつい」といった体感を目安にするのもいいでしょう。

運動の長さとしては、1回に20分以上続けることが大切です。血糖改善効果や脂肪燃焼による体重減少は20分以上運動すると現れるとも言われている為です。1日の運動量としては、理想は歩行で1万歩。頻度は毎日が理想ですが、週に3回以上が望ましいと言われています。というのも糖尿病患者での糖代謝の改善は運動後12~72時間持続すると言われている為です。

また、レジスタンス運動の場合も週に2~3回の頻度で行うことが望まれます。

 

【運動の種類と消費エネルギー】

運動で消費できるエネルギーはそれほど多くはなく、運動の糖代謝に及ぼす効果はインスリン感受性の改善が主であることを知っておくことは大切です。そのことでより食事療法の重要さが判るからです。

下記におおまかな運動種目別のエネルギー消費量を記します。

 

表1 運動種目別のエネルギー消費量

項目 エネルギー消費量 項目 エネルギー消費量
歩行(分速60m) 0.05 遊泳(クロール) 0.37
ジョギング(軽い) 0.14 遊泳(平泳ぎ) 0.20
体操(軽い) 0.14 卓球 0.15
自転車(平地時速10km) 0.08 バトミントン 0.15
自転車(登坂時速10km) 0.15 テニス 0.14
階段昇降 0.10 ゴルフ 0.08

●エネルギー消費量に自分の体重(kg)と時間(分)を掛けると、その運動に必要なおおよそのエネルギー量(kcal)を計算できます。
エネルギー量(kcal)=エネルギー消費量×体重(kg)×時間(分)

 

(日本糖尿病協会 糖尿病治療のてびき 改訂56版 南江堂より抜粋)

 

 

図1 20分間の運動で消費するエネルギー量(体重60kgの場合)

 

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(日本糖尿病協会 糖尿病治療のてびき 改訂56版 南江堂をもとに作成)

 

 

【運動を避けた方がよい場合】

糖尿病のコントロールが極端に悪い場合。(空腹時血糖250mg/dl以上。尿ケトン陽性)

増殖網膜症による新鮮な眼底出血がある場合。

腎不全の状態にある場合(血清クレアチニン:男性で2.5mg/dl以上、女性で2.0mg/dl以上)

虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)や心肺機能に障害のある場合

骨・関節疾患がある場合

高度の糖尿病自律神経障害 などが挙げられます。

   運動療法を開始する前に主治医の先生に相談して下さい。

 

この項の最後に

運動療法は、まずご自身が運動をしてもいいのか確認し、継続してできる運動を無理なく、そして運動を行うタイミングも考慮して行うとよいと思います。

また、運動によるエネルギー消費量が意外と少ないのがお判りになったかと思います。体重1kg減量するには7000kcal消費する必要があると言われております。減量の場合は運動療法だけでなく、食事療法も同時に行うことが効率的です。

 

 

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